娘の死が悲しい『彼岸過迄』夏目漱石

 新しい携帯は私のタブレットと比べても容量が大きいので、今まで入れられなかった(入れても動作が遅すぎて使えなかった)kindleをインストールし、青空文庫でいろいろとダウンロードしている。シャーロック・ホームズ夏目漱石が全部無料で読めるというのだから、すごい時代である。という話はもう書いたと思ったが、書いてなかったので書いた。

 というわけで、夏目漱石の『彼岸過迄』を読んだ。短編をつないで長編になっているので読みやすい。前半は就職口を探す敬太郎の話、後半はその友人の須永が悩む話。後者の悩みは千代子に気持ちを伝えられない自分に高等遊民が煩悶する話で、小説の主題といって差し支えない。『こころ』でいうと敬太郎が私、須永が先生か。時代を超えて読まれるに十分な話で結構なのだが、前後の間に挟まれた短編「雨も降る日」で幼児の死が描かれており、これが問題である。漱石が実際に1歳の娘を亡くしていることを考え合わせると不必要なまでにリアルだし、読むのがつらいのである。この辺は文章が頭に入る前に次へ行くように、さっと目を滑らて読み飛ばすことが推奨される。

 ちなみにタイトルについては「元日から始めて、彼岸過まで書く予定だから単にそう名づけたまでに過ぎない実は空しい標題」と書いてあった。なかなか斬新なタイトルのつけ方だと思う。