『アメリカ彦蔵』吉村昭

 アメリカに渡った彦蔵の話。と書くと現代では普通のことだが、時代は幕末。船乗り見習いだった彦蔵は乗る船が嵐にあい、アメリカの船に拾われて渡米。そこから中国へ行き、日本へ帰ろうとするもちょうど異国船打払令が出たところで幕府から砲撃されて失敗、またアメリカへ戻る。その後米国籍を取得後に帰国は叶うが、尊王攘夷に燃える幕末の日本にいたら命がないということでまたアメリカへ。ここではリンカーンに会ったり南北戦争に巻き込まれたりしつつ、また日本へ戻る彦蔵。激動の歴史をここまで生々しく体験した人も珍しい。

 彦蔵は十分な教育を受けられる身分でもなく、また若いときに漂流し、アメリカで教育を受けることができたので幕末の日本を客観的に見ることができた。小説だからというのもあるが、その視点は現代人のものに近く、それだけ現代日本の視線がアメリカ的というか、逆に言えばアメリカの見方は当時から大きくはブレていないのかもしれない。もちろん変化したことはあるだろうけども、キリスト教を根底にした価値観の強さである。日本もまた明治維新や太平洋戦争という価値観の変更を強いられる出来事がありつつも、変わらない部分もある。その根底にあるのは何だろうか。とか考えたけども、うまく説明できるものは見つからなかった。