歴史とはなにか

岡田英弘の新書。
「歴史とはなにか」とはずいぶん大きく構えたものだが、この本では本当に「歴史とはなにか」について語っている。
本書ではまず第一部「歴史のある文明、歴史のない文明」でなにが歴史かということについて「なにを歴史として認識するか」であるとしている。歴史は人間にかかわるものであるから、人間の集団によって捉え方も変わってくるのである。続いて各文明における歴史の位置付け。歴史という文化を自前で作り出したのは中国の司馬遷地中海世界ヘロドトスのみで、前者はいかに皇帝が正当な支配者であるかを語る歴史であり、後者は世界の変化・アジアとヨーロッパの抗争を語る歴史。
第二部「日本史はどう作られたか」ではわが国日本の歴史がいかに作られたか。神話をどう取り扱うか。日本の神話はまるっきりの虚構というわけではなく、当時の話を神々もしくは古代の天皇に仮託して書き換えたものであるから、本来は「良い歴史」のためには省かれるべきものだが、日本人だけでなく人々は神話にロマンを求めるものだから「良い歴史」をまとめても誰も喜んではくれない、という話。
第三部は「現代史のとらえかた」。「世界は一定の方向に向かって発展しているのではない」「時代の区分は、むかしといま、古代と現代の二分法しかない」「国民国家とはなにか」といった、言葉の定義、誤解しやすいことの訂正などを述べつつ、結局、歴史を作るのは、「個人としての歴史家」であり、それ以外に歴史を書く立場というものは理論上ありえないとしている。
相変わらず切れが良くて楽しい。オススメ。以下キレのある部分を抜粋。

(アメリカについて)アメリカ合衆国は、世界の文明のなかでもっとも特異な文明であって、アメリカ文明には普遍性がほとんどない。アメリカ人自身は、自分の文明の特異性をまったく自覚していない。全人類に通用する普遍的な文明だと思いこんでいる。

道徳的にいいか、悪いかは、当事者だけが問題にすることだ。はっきり言ってしまえば、どちら側をひいきするかによって決まる問題だ。普遍的な歴史を書くのがしごとの歴史家は、そんな議論にかかわりあってるひまはない。

世界はたしかに変化しているけれども、それは偶然の事件の積み重なりによって変化するのだ。

はっきり言ってしまえば、国家は戦争をするためにある。戦争ができないのは国家ではない。

歴史とはなにか (文春新書)

歴史とはなにか (文春新書)