ゴールデンスランバー

伊坂幸太郎の長編小説。久しぶりに会う友人から打ち明け話をされ、首相爆殺の犯人とされてしまう主人公。国家権力から逃げることはできるのか?という話。
まず思ったのは、これは浦沢直樹だ、ということ。主人公がわけもわからないうちに謎の権力から命を狙われると言えば、浦沢直樹作品である。ケネディ暗殺をあからさまに下敷きにしているので、いやでもビリーバットを思い出す。教科書倉庫とか。
また、小説に登場する銃は必ず発射されなければならない、ではないけれども、挿入されるエピソードがきっちり伏線として回収されるのも浦沢直樹的である。伏線とはそういうものではあるが、若干都合が良すぎるきらいがないでもない。マスターキートンであれば流石の機転ということになっても、こちらの主人公は一介の元宅配業者なので、その点で説得力に欠ける。命がけで逃げる必死さゆえということで納得できなくもないが。都合が良すぎると言えば主人公青柳が出会う人たちが親切すぎる気がしないでもない。これもまた浦沢直樹的である。
舞台となるのは仙台である。日本の地方都市の中でも合格点をもらえる方だろう。イメージはちょっと都会っぽい田舎。知らないけどたぶんそんなところで、きっと多くの日本人の共感を得やすいのではないか。これが南の島であれば何であっても読者に対して逐一説明が必要となり、物語が停滞しかねない。いや実際、物語はすらすらと進んで怖いほどである。舞台だけでなく、元宅配業者とか、大学のエピソードとか、圧倒的なまでにありふれた設定が読みやすくさせるのではないか。浦沢直樹的な感じというのはこういう点にもあるのかもしれない。
とりあえず、読みやすいのでオススメ。

ゴールデンスランバー (新潮文庫)

ゴールデンスランバー (新潮文庫)