言わなければよかったのに日記

深沢七郎のエッセイというか日記。
深沢七郎は『楢山節考』を書いた人だが、かなりすごい人だ。著者紹介を読むだけでもそれがわかる。
大正三年、山梨県に生まれる。日川中学を卒業。中学生のころからギターに熱中。のちにリサイタルをしばしば開いた。昭和三十一年、「楢山節考」により第一回中央公論新人賞を受賞。(中略)三十五年十二月号「中央公論」に発表した「 風流夢譚」により翌年二月、事件が起り、以後、放浪生活に入った。四十年、埼玉県にラブミー農場を、四十六年、東京下町に今川焼屋を、五十一年には団小屋を開業し、話題となる(後略)
三回くらい読んでもよく意味の分からない略歴である。意味は分からないけどすごいのはわかる。
日記の中身も負けてはおらず、喫茶店で隣の人たちが木を見に行く話をしていたので京都までついていった(「銘木さがし」)とか、楢山節考の舞台稽古を見て、はじめてかわいそうな話だと思って結末を変えてもらうようお願いしたが断られた(「とてもじゃないけど日記」)とか、相当にすごい。破天荒というか純真というか、まあ紙一重の人であることは間違いない。オススメ。
ちなみに「風流夢譚」による事件というのは、作品中で天皇と皇后、皇太子と皇太子妃を処刑する場面があったり主人公が皇太后を殴る場面があったりと、社会風刺的な内容であったとはいえ不敬ととられる描写があったため、右翼団体が出版社に押しかけたり、右翼少年が出版社社長宅に押し入って住人を殺傷したりという騒動のことだそうです。ちなみにくだんの作品は発禁にはならなかったものの、ごく最近、電子版が出版されるまで出版はされていなかったようです。