たとえばの楽しみ

出久根達郎のエッセイ。
印象に残ったのは宮沢賢治についての話。
宮沢賢治は『国訳妙法蓮華経』を一千部出版してほしい、と遺言し、最後のページに以下の賢治の言葉が印刷された。

合掌 私の全生涯の仕事は此経をあなたの御手許に届けそして其中にある仏意に触れてあなたが無上道に入られんことを御願いするの外ありません 昭和八年九月二十一日 臨終の日に於て 宮沢賢治

遺言は実行され、一千部のうちの一部が現代に至り、著者が手に入れた。奥さんの手術代の足しにするべく手放すというお客さん(Aさん)から仕入れた。Aさんの奥さんの手術はうまくいったという。
その後、件の一冊は著者が愛蔵していたが、やはり老母の手術費用を賄うために手放した。

賢治の本は今、だれの手にあるだろう?Aさんや私のように、持ち主の苦境を救ってくれているに違いない。そのためにこの世に生まれてきた本のような気がする。

たとえばの楽しみ (講談社文庫)

たとえばの楽しみ (講談社文庫)