パラダイン夫人の恋

監督:アルフレッド・ヒッチコック(1947 米)
出演:グレゴリー・ペック

近代のロンドン。目の不自由なパラダイン大佐が殺害され、夫人が提訴される事件が起こる。裁判を担当することになった弁護士アンソニーは、やがて夫人の美しく妖しい魅力にとりつかれ、彼女の無実を証明しようと躍起になるのであった。しかし疑いの目が大佐の世話人ラトゥールに向いたことからアンソニーは事件の意外な真実に気づいてゆく・・・

 ヒッチコック作品は大まかに渡米前後でわけることができる。この作品は舞台が英国なので、渡米前だろうと思ったのだがグレゴリー・ペックが出てるしセルズニックの名前も出てるしアレ?と思ったら渡米後の作品だった。渡米後初期の作品。
それでも舞台は英国である。カツラをかぶって法廷劇である。そこで弁護士役のグレゴリー・ペック依頼人を助けるべく奮闘するのだが、これが英国社会に入り込めないアメリカ人にしか見えないのは『ローマの休日』のせいとばかりは言えないよなあ。勝利と正義の男グレゴリー・ペックには田舎の宿も法廷のカツラも似合わない。そもそも階級社会にそぐわない人選なのではなかろうか。
そぐわないといえば音楽も盛り上げようとしすぎていて、そぐわないというかちょっとうるさい。他の出演者は、例えば夫人役の人も世話人の人も外国人の役で外国人らしさを出している。出しているのだが全体でみるとそれが仇となっている。それなりの法廷劇、浮いてしまう主人公、怪しい外国人、そしてうるさいくらい盛り上げようとする音楽。総じて見るとなんだかちょっと陳腐。 

パラダイン夫人の恋 [DVD] FRT-174

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秘密

1961年、少女ローレルは恐ろしい事件を目撃する。突然現われた見知らぬ男を母が刺殺したのだ。死亡した男は近隣に出没していた不審者だったため、母の正当防衛が認められた。男が母に「やあ、ドロシー、久しぶりだね」と言ったことをローレルは誰にも話さなかった。男は母を知っていた。母も男を知っていた。彼は誰だったのか?ケイト・モートンが再びあなたを迷宮に誘う。

『忘れられた花園』を読んでから楽しみにしていた、ケイト・モートンの長編ミステリ。amazonのレビューでは意外と低評価だったが私としては結末も含めてストライク。『忘れられた花園』とほとんど同じと言ってしまえばその通りだが、面白いと思うのだからしょうがない。
現在になにがしかの影響を与えている過去の事件の謎を解くというスタイルは、とりもなおさず全てのミステリに通じるものである。その事件が現在と離れていれば歴史が絡んできて私好みの話となる。それをいつも同じと言ってしまっては作者も立つ瀬がない。それにたかだか二つの小説で舞台が少し似ているくらいどうということはない。ロバート・ゴダードなんかほとんど毎回同じような作品だがそれなりに人気はある。主人公を導く手がかりの散りばめ方や小道具、舞台によって趣は変わってくるので、読者はそれぞれ楽しめば良いのである。でも3つ目はもういいかな。

秘密〈上〉 (創元推理文庫)

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秘密〈下〉 (創元推理文庫)

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蒲生邸事件

一九九四年、予備校受験のために上京した受験生の尾崎孝史だったが、二月二十六日未明、宿泊している古いホテルで火災に見舞われた。間一髪、同宿の男に救われたものの、避難した先はなんと昭和十一年の東京。男は時間軸を自由に移動できる能力を持った時間旅行者だったのだ。雪降りしきる帝都では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた――。
大胆な着想で挑んだ著者会心日本SF大賞受賞長篇!

宮部みゆき二・二六事件を舞台とした長編SF小説二・二六事件は祖父も誘われたと聞いたことがある。戒厳令下の東京について全く知らなくても事件の渦中にいる臨場感を味わったような心持ちにさせられるのはさすがである。結末も良かった。 

蒲生邸事件 (文春文庫)

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カササギ殺人事件

1955年7月、パイ屋敷の家政婦の葬儀がしめやかにおこなわれた。鍵のかかった屋敷の階段の下で倒れていた彼女は、掃除機のコードに足を引っかけたのか、あるいは……。その死は小さな村の人々へ徐々に波紋を広げていく。消えた毒薬、謎の訪問者、そして第二の死。病を抱えた名探偵アティカス・ピュントの推理は――。
アンソニーホロヴィッツの長編ミステリ。「このミステリーがすごい!」「本屋大賞」など2019年の賞を総ナメにした傑作!と言われたら読みたくなるでしょう。
前半はアガサ・クリスティっぽい作中作、後半はその作家が死亡するという現実の世界での事件というちょっと変わった趣向のミステリ。2つ比べて出されると自分のミステリの好みがよくわかる。私はクリスティ的なミステリの方が好き。
今までその理由は意識していなかったが、現代の事件は描写にいちいち引っかかってしまうのに対し、昔の描写は細かいことをよく知らないので頭に入ってくる情報が少ないからだと思う。
肝心の後半の犯人探しについては何となくわかってしまったのが残念。今「残念」と書いたが、ミステリ好きは犯人を当てたら良いのか当てられなくて悔しい思いをするのが良いのか。どっちが正しいのか。私はどんでん返しが好きなので当てられない方が良いのだが。
結論としてはクリスティ好き、もしくはちょっと凝った構成のミステリが好きな向きには読む価値はあるが、賞を総ナメにするほどかと言われると微妙。
カササギ殺人事件〈上〉 (創元推理文庫)

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カササギ殺人事件〈下〉 (創元推理文庫)

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マダムと奇人と殺人と

監督:ナディーヌ・モンフィス(2004 仏=白=盧)
出演:ミッシェル・ブラン他

ブリュッセルで“美大生連続殺人事件”が発生。レオン警視(ミシェル・ブラン)はボルネオ刑事(オリヴィエ・ブロッシュ)と愛犬とともに調査を進め、個性的な人々の集うビストロ“突然死”にたどり着く。(yahoo映画より)

たまたまそういう映画ばかり見ているだけかもしれないけども、フランス映画はマイノリティというかグラン・ギニョールなもの、日本でいう見世物小屋的な、エログロなものに寛大な気がするのである。そういう伝統があるのかな。その見せ方にも巧拙あるようで、今回見た『マダムと奇人と殺人と』は不完全燃焼。そういう方面とコメディとイルマ父娘のドラマとミステリ要素とが上手くまとまっていない。必然性が少ないからそう思えるのかもしれない。いうなれば西国分寺駅武蔵野線に乗ったら大宮に行ってしまったような、中途半端な感じ。

マダムと奇人と殺人と [DVD]

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