戦中戦後ドイツの混乱『ベルリンは晴れているか』深緑野分

 深緑野分の長編ミステリ。舞台は第二次大戦後のベルリン。主人公は突然ソヴィエトの警察に拘束され、殺人事件への関与を疑われる。
 まず舞台となる戦後ベルリンの圧倒的な情報量に驚く。翻訳小説っぽさもあり、これ書いたのドイツ人だっけ?と確認してしまった。まあ私はベルリンについて何も知らないので描写が正しいかどうかは確認のしようがないけども、たぶんこの通りなんだろうと思わせるだけの説得力があった。そしてその描写からは戦中戦後の混乱が浮かび上がる。普通の人の目線のドイツ近代史である。なんといってもドイツは首都陥落まで行ってるので、その混乱は日本の比ではない。逆に言えばベルリンで起きたことは沖縄で起きたことであると思うと、その凄惨さに慄く。登場人物たちも多かれ少なかれその凄惨さを潜り抜けてきた人たちで、それぞれのエピソードがしっかりと歴史を踏まえていて面白かった。ドイツ映画史にも触れていて興味深い。
 殺人事件の真相については何を書いてもネタバレになりそうなので控えるが、意外性はあるし納得もできる。ただ他のエピソードが面白かったからか、ばらし方が良くなかったのか、それともその両方なのかわからないが、最後の章だけ、すこーしパンチが弱かった。印象に残らないというか。その点が少し惜しいが、面白かったことには変わりない。
 ちなみにベルリンは後に東西に分割される。東ベルリン西ベルリンと聞くとドイツ真っ二つなイメージを思い浮かべがちだが、それは東ドイツ西ドイツのイメージであり、ベルリンの実際は↓このようになっていた。白い部分が西ドイツ、赤い部分が西ベルリン。

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東西ドイツ地図。Wikipediaより。

 東西ドイツの話は面白いのでWikipediaなどで読むと良いです。

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

  • 作者:深緑 野分
  • 発売日: 2018/09/26
  • メディア: 単行本