オリエント急行の殺人

史上最高のベストセラー作家ともいわれるアガサ・クリスティのあまりにも有名な推理小説アガサ・クリスティは名探偵を何人も生み出しているが、中でもエルキュール・ポアロNHKBBC製作のTVドラマをやっていたのでポアロシリーズはかなり有名な部類に入るだろう。私もなぜだかクリスティの小説ばかりをやたらと読んでいた時期があって、ポアロはたぶん全部読んだはず。どちらかと言うと「オリエント急行」のように全てをポアロの灰色の脳細胞が解決してしまうものよりヘイスティングスが脇にいる方が好みである。
ところで推理小説というものはつまるところ誰が犯人であるかどうやって犯行が行われたかをいかに読者に知らせないかにかかっているわけだが、この点にこだわりすぎて十分な証拠を提供しないままネタ晴らしに至る推理小説もたまにあったりする。当然それではいけないわけで、そういう条件をクリアした上で読者の盲点をつかなければ推理小説とはいえない。そういう意味でこの小説は十分に条件を満たしておりまた読者を驚かせるに足る結末が用意されていて、全く大した推理小説であるといえる。
ただこの意外性、ここでいうのはいわゆる犯行手口の意外性だけでなく犯人の意外性も含めた意味で、というものは重要であるだけに秘密でなければならず、しかし優秀なトリックであればひとつの典型として有名になったり真似されたりしてしまうもので、ましてクリスティ作品ともなると読む人によってはそのトリックはあってないようなものになってしまい、それは大変残念なことに思える。それでもやはりこの作品は読んでおいて損はないと思うが、この優秀なトリックゆえの二律背反はオリジナルという言葉の語源を考えれば致し方のないことなので、もう1つの読み方として不純ではあるが当時の雰囲気(「オリエント急行」が発表されたのは1934年)を感じながら読んだりするとそれはそれでとても楽しめたりする。と、ここまで散散持ち上げてしまったが実際この作品の意外性というのは現代の世間一般でいうとどうなんだろうと少し不安になった。