マンハッタン

監督:ウディ・アレン (1979 アメリカ)
出演:ウディ・アレンマリエル・ヘミングウェイダイアン・キートン
内容:大都会で錯綜する男女の恋愛


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再見。モノクロの陰影とガーシュインの曲で描かれるというか紹介されるマンハッタンは本当にきれいでドラマチック。夜の散歩の場面の橋を背景に川岸のベンチに座っている映像だけでも見る価値はあると思う。物語はそんな美しい街で主人公のアイザックは離婚の経験から人間不信になっていて、それでもメリーに魅かれて裏切られて開き直って打ちのめされて立ち直るという話で、随所にウディ・アレンらしい笑いがちりばめられている。
中年のアイザックが17歳のトレイシーと付き合っていたのは子供相手なら自分を抑えることができるしいろんな意味で自分に自信を持てたからだが、子供でないメリーとの新たな出会いにより徐徐に自信を取り戻し人間不信は薄らいでいく。この回復期はメリーが元鞘に戻ることで終わりを迎え、アイザックはまた打ちのめされるが、同時にトレイシーに対する自分の気持ちにも気がつく。同性を庇うわけではないがこれは男の我儘なようでそうではなく、メリーとの関係を通じて自分に忠実に生きても良いんだと気がついたのだと思う。アイザックとメリーの蜜月は短く儚いが、お互いにアイザックが書こうとしていた「価値観の崩壊」、そしてそれを超えた価値観の再構築まで辿りつけたという点で有意義なものだったと思う。
トレイシーを引きとめようとアイザックがマンハッタンの街中を走る姿は静かなこの作品中もっとも劇的だったが、時すでに遅くトレイシーはロンドン行きを決めた後だった、というか今まさに出発の時だった。といっても半年の留学予定。アイザックはここで6ヶ月もたてばどうなることかとトレイシーを止める。これは愛情故の行動ではあるが、トレイシーは「もっと人を信用しろ」と言う。人を好きになるのは信用して期待するということ。人を信じることは自分に自信がなければできないことで、つまりは自分を信じることにつながっている。もちろん人を信じて裏切られればダメージは大きいが、それを恐れて誰にも寄りかからないのでは愛情を受けられない。とかく良い関係でいることは難しいが、誰かが誰かを愛している状況を眺めるやさしい視点はすごくウディ・アレンらしい。