日本人に哲学はわからないという開き直り『反哲学入門』木田元

 大学の一般教養課程で、簡単に単位をとれるという評判の授業は当然学生に人気があるものだが、私の在学時は哲学の授業がそうだった。授業の出欠は取らず、テストも回答においしいカレーの作り方を書くだけで単位が取れると噂されたその授業は、担当教師の名前をとって『キダテツ』と呼ばれていた。その木田先生の本が評判だったので改めて読んでみた。ちなみにもう一つ同じような評判の授業に『歴史学』のコマがありこちらも履修したが、これは私が履修した年から先生が変わり、毎回出欠確認、レポートは20枚以上必須、という大きな仕様変更があったため、単位がギリギリだった私は毎回出席して「江戸時代の都市近郊農村におけるお祝い事」についてガッツリ勉強する羽目となった。
 さて。本書ではプラトンアリストテレス哲学史とその影響をざっくりと学ぶことができる。著者の話したものをまとめてあるので比較的読みやすい。ただしそもそも哲学はモノの意味を考えて定義し続ける学問なので、読み進めるに従い徐々に用語が硬くなっていくのは仕方がないところ。そんな中で何とか覚えている著者の主張は、哲学の根本にはキリスト教の「理性」が入っているのでキリスト教以外には理解できないところがある、という点。これはつまり、哲学者の述べる「理性」は、ほとんどの人間が持ちあわせている(と思われる)理知的な考え方としての「理性」の他に、キリスト教由来の、神様の理性の一部が人に宿っている「理性」というのがあるらしい、いやあると考えているらしいので、それゆえにキリスト教圏以外ではこの考え方ははっきり言ってよくわからないよね、という話。だからこその『"反"哲学入門』であるらしい。
 我ながら悲しくなるほど説明が下手であることは置いておくとして、つまるところ哲学では難しい内容をわかりやすくするために言葉を再定義したり新しく作ったりしており、そのせいで素人目には余計難しく感じられてしまうという二律背反、これが哲学を難しく感じる原因の一つであるように思える。読み慣れるとわかるようになるんだろうか。
 ちなみに『キダテツ』の期末試験は「『原ロゴス』について記せ」という問題だった。何のことかさっぱりわからなかったが、関係ないことを適当な枚数書いたら単位はもらえた。噂は本当だった。
反哲学入門 (新潮文庫)

反哲学入門 (新潮文庫)

  • 作者:元, 木田
  • 発売日: 2010/05/28
  • メディア: 文庫