アングロサクソンと日本人

国史をなぞってそれぞれの時代のエピソードを紹介しつつ、イギリスと日本を比べた文化論。出してくるエピソードが面白いので飽きない。
中でも面白かったのが第二章「国語が消えた」。これはかいつまんで言うと以下のようになる。
それまで古英語を話していたイギリスの貴族たちが、王位継承の問題でフランスからやってきたノルマンディー公ウイリアムが王位につくまでにこれと戦い、そのほとんどが途絶えてしまったために新しいイギリス宮廷はフランス人だらけ、フランス語ばかりになってしまった。これが1066年くらいの話でそれからしばらく模範となるべき宮廷で話される公の言葉がフランス語となってしまったものだから、英語というのは下層民だけが話す言葉になってしまったのである。
ちなみにこれは13世紀にフランスにある領地を失ったあたりからイギリス人のプライドも回復してきて英語は復活の兆しを見せるのだが、実に200年近くイギリスの国語がフランス語だったのである。
ちなみにこれと似たようなことは日本でも起きていて、万葉集以降は100年以上大和言葉の勅撰集が出来ていないという事実がある。当時のエリートといえば漢文なのである。ただイギリスと異なるのは王室が入れ替わったわけではないので皇室をはじめとする宮廷=日本のエリート層の間でも話し言葉大和言葉を使っていたものと思われ、それは和歌の伝統などに依然として残った。
等等、歴史知識の隙間を埋めてくれる興味深い話題が目白押しである。今のところ、今年一番の本。 
アングロサクソンと日本人 (新潮選書)

アングロサクソンと日本人 (新潮選書)

  • 作者:渡部 昇一
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1987/02/01
  • メディア: 単行本