『世界は五反田から始まった』星野博美

 買った覚えのない本。著者の家は祖父の代から五反田あたりで町工場を営んでおり、祖父が遺した手記を通じて戦中戦後を生き抜いた家族と舞台である五反田界隈をまとめた本。ドキュメンタリーなのかな?私の父は戸越銀座あたりの生まれなので、郷愁を感じて買った本ではないかと思われる。
 全体に著者の思いが強いので読みづらいが、戦争を生き抜いた家族の歴史としては面白かった。あと戦争という非常時に慣れていく人々の描写も生々しい。

 

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』村上春樹

 新作が出ると聞いて、そういえば買ってあった村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を読んだ。今回の作品は友達の輪から外された主人公が立ち直る過程で出来事の真相を究明しようとする、珍しくミステリ要素のあるお話であった。ただそれはミステリ要素があるだけでミステリではないので、なんとなくオカルトな要素の残る解決、というかつまるところ解決はしないのでミステリとは言えないか。

 村上春樹の小説は好き嫌いが分かれると言っていい。主にその外国語を翻訳したような文体と相まって、やたらとパスタをゆでたりセックスしたりする登場人物は読者にきざな印象を与えがちである。かくいう私もあまり好みではなかったのでよくわかるのだが、よく考えればパスタをゆでたりセックスをしたりするのは普通の人の普通の行動なので、そこにいちいち腹を立てなくてもよさそうなものである。それが気になってしまうのは隠しておいてほしいからであり、隠しておいて良いところを明らかにし、(話の上で)明らかにしてほしいところを隠しておく作者への苛立ちというのはある。ただしそこさえ我慢しておけば、もしくは慣れてしまえば、物語も表現もこちらの気をとらえて離さないようなところがあるので楽しめるはず。と思う。

 それから他に良い点というか読んでしまう点の一つに地名がはっきり出ていることがあって、今回は名古屋、東京、フィンランド、あと浜名湖も出ていたか。新宿駅とか出てくると、親近感を覚える人も多いのではないだろうか。わりと(日本での)私と行動範囲が近いので想像しやすいのも楽しくて良い。

 

『偽書「東日流外三郡誌」事件』斉藤光政

 先日取材で南の島にいらした記者の方にいただいた本。
 農家の天井裏から“発見”された、正史にない古文書「東日流外三郡誌」が世に出てから騒動が終息するまでを追ったノンフィクション。長期間にわたった騒動をまとめているので登場人物が多いが、その割にはわかりやすくまとまっていると思う。読んだ限りでは「東日流外三郡誌」は偽書であるとする「偽書派」の方が理路整然としているように見えるが片方の意見だけで判断するのは難しい。ただ本物であると主張する「真書派」の主張を改めて調べる気にはなれないし、のんびりした田舎の人たちを騙そうとしたことは明らかなので情状酌量の余地はないかな。現代ではありえない事件だが、今なら逆にフィクションとして発表すればそこそこ人気が出たりしたかもしれない。

『シャーロック・ホームズの思い出』コナン・ドイル

 Kindleの無料のシャーロック・ホームズを読んでいたら他のも読みたくなったので購入した第二の短編集。ただしKindle本(翻訳は戦前文壇の寵児・三上於菟吉)のような読みづらい文体ではないので若干拍子抜け。モリアーティ教授と対峙する「最後の事件」収録。

 

『シャーロック・ホームズの冒険』コナン・ドイル

 Kindleの無料のシャーロック・ホームズを読んでいたら他のも読みたくなったので購入したシャーロック・ホームズ最初の短編集。アイリーン・アドラーが登場する『ボヘミアの醜聞』、有名な『まだらの紐』はこの短編集に入っている。