歴史に消えた古代図書館は誰もが想像できる方法で存続していた『失われた図書館』A・M・ディーン

 映画化を狙ったような海外サスペンス小説を読む場合、姿を現さない悪者の描写とか、主人公が悪者と対峙する場面がすごくいらないと思うのだけども、それはおそらく読む原動力が謎の部分への期待にあるからである。ただ海外サスペンス小説の著者はどういうわけか前者に重きを置いているようで、私にとっての当りは少ない。

 『失われた図書館』は古代アレクサンドリアの図書館が今も存在しており、それを狙う悪者に主人公が巻き込まれる話であるが、やはり姿を現さない悪者の描写など(私にとって)わりとどうでもいい場面が多く残念であった。しかもその割に主人公を追い詰めておきながら悪者同士の引継の悪さであっさり逃がしたりするし。ホウレンソウすらできてないなんて、悪の組織は現代的でしっかりとしてる風だったけど台無しだあ。

 一方で謎に至るまでの過程はどうかといえば、慎重を期すにしてもイスタンブールは行かなくて良かったよう気もするし、世界的に有名な大学教授が考えたようなスマートさは感じない。肝心の謎の行方も、現実的に考えてそうなるよねという種明かしで、予想できる範疇を超えない不満というか、裏切られない。劣化版ロバート・ゴダードもしくはダヴィンチコード

 それからこういった小説の主人公は家族や恋人を大事にしていてそれが弱点となることが多い。家族を大事にしない主人公というのがいるとすれば魅力に欠けるし、実際弱点となりうるのは当然とは思うが、あまりにも多くの主人公が、次の休暇を家族や恋人と過ごすことを楽しみにし過ぎだし、悪者に家族や恋人のことで脅迫されすぎる。欧米の理想なのかもしれないが食傷気味である。

失われた図書館 (集英社文庫)

失われた図書館 (集英社文庫)