オリンピックの身代金

奥田英朗の長編サスペンス小説。
東京オリンピックを前にして沸き立つ東京が舞台。主人公は、土方をやっていた兄の死をきっかけに東京だけが享受する繁栄に疑問を抱き、その象徴であるオリンピックを引っくり返す作戦を立てる。
日本は、作中でスリのなんとかさんが主人公を諫めるために言っていた通り、常に東京を先頭に繁栄してきた。この作品の舞台はその皮切りで、いわば人々が初めてその落差に気付きはじめた時代。作中の田舎の人が東京に向ける視線は、例えば私の住んでいる南の島の人々が日本に向ける視線と変わらない。この国の人たちもその繁栄に浴するために努力して変わっていくかどうかは別として、当時の都鄙の差はそのくらいあったと思われる。それが今では日本中がどこに行っても大差がなくなったんだからすごいよなあ、とも思うし、どこに行っても変わらなくなって、本当にそれでよかったのか、とも思う。
東京オリンピックからこっち、日本はそういう方向に進み、ある程度やり遂げたわけだけども、、また今度の東京オリンピックから先はどっちの方向に行くのかな、ということも考えてみてもいいのではないかな。オススメ。