従業員の保険の話

サンダル履きの従業員がコンクリートミキサーの上に乗って作業をしていたら、ミキサーに落っこちて右足がズタズタになってしまった。といってもこれは2年前の話。従業員はすぐに病院に運ばれ、足切断!という診断で、しかしフィリピンに送れば手術できるという話を聞いたうちの兄が医者にそうするようにお願いした。そして従業員はフィリピンへ送られて治療を受けた。その後はマジュロに戻ってきて通院していたようだが、途中感染症にかかったとかで回復に時間がかかり、ようやく完治して仕事に復帰したのが今年の3月。
それから診断書を持ってこさせたりそれを翻訳したり日本に送ったりして、ようやく今月に入って保険金をもらえたのだが、金額は10万円以下だった。それを当人に告げたところ、フィリピンまでの航空券代はどうなってんだ?という。曰く、手術をしたのはフィリピンで、就労時間内の事故なんだから会社側が全費用を持たなければおかしい、という。
彼の言うことに間違いはなく、今後の課題としてその辺もカバーできる保険に切り替えなければいけないのだが、今回の場合はその航空券は政府が支払っているので、政府がそれを請求してくるならともかく、なぜお前に言われなければいけないのか。というより何がどう間違ってもお前には関係のないお金だ、ということを伝えたら何も言わず大人しくなった。そもそも喧嘩していたわけではないので納得してくれればそれでいいのだが。
こちらで仕事をしていて思うのは、お互いの認識にズレがあるとなにごともうまくいかないということ。いやおそらく海外であることに関係なく日本でもそうなんだろうけども。今回で言えば私は渡航費用は政府が負担するものと決めてかかっていたし、彼らは会社の負担だと思っていた。私の常識と彼らの常識のズレであり、日本人とマーシャル人のズレでもある。このズレを埋めるためにしつこく確認をするのが私の仕事でもあり、今回はそれが足りなかったのだろう。言い訳をすると、こちらの人たちはコミュニケーションが驚くほど不足している。「OKOK、ノープロブレム」と言いながらわかっていない。それは私が外国人だから、というだけではなく現地人同士でも不足しているのが明らかで、配達の指示をするキャッシャーと配達の連中とで毎日揉めているのを見てもわかる。わからないことを聞く、というのは当たり前のように思えるが実は大変重要だということを痛感した。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」とはよく言ったものだ。昔の人はえらいなあ。
従業員の訴えを一蹴して自席に戻り、落ち着いて考えたらそもそも私はその渡航費用の領収書をもらっていない。領収書も持ってこないで請求もないもんだ。