ぼっけえ、きょうてえ

岩井志麻子のホラー短編集。
タイトルにもなっている「ぼっけえ、きょうてえ」は岡山弁で「すごくこわい」という意味だそうである。収録されているのは、女郎が客に身の上話を聞かせる「ぼっけぇ、きょうてぇ」、流行り病の対策担当となった役人の話「密告函」、浜の忌地“あまぞわい”にまつわる亡霊が漁師村に嫁いだ女を呪う「あまぞわい」、小さい時から見える牛におびえながら生活する女の子の「依って件(くだん)の如し」以上四篇。どの話も人間の情念がこびりついていて、ホラーという言葉では済まされないものがある。オススメ。としたいところだが人によっては好きでなそうな話もあるのでおすすめはしない。
好きでなさそうな話というのは、例えば奇形であったり暴力であったり近親相姦であったり。そういった、怪奇に片足を突っ込んだような話が好きなのは、ケガレたものが確かにあった時代の風景とはどういうものであったのか、という高尚?な気持ちと、わざわざ見るものではないとわかっていながら気になって見てしまうような下世話な好奇心があって、これらはつまるところ同じ穴の狢である。自分でもそういう好奇心が人より多めなのかもしれないと自覚はしているが、そういったものすべてにフタをして、なかったことにする現代についてはいかがなものかと思わないでもない。逆に言えばフタをするようなものすなわちケガレと考えている現代人の反応は、ハレとケの思想がしみ込んでいるからこそのものといえるかもしれない。といってフタを開けて臭いものを引っ張り出して白日の下にさらすつもりもなく、どういうつもりかと言えばただ博物館でミイラでも見ているようなこころもちと言ったら近い。
ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)