フーコーの振り子

ウンベルト・エーコの長編小説。いろいろこじらせた3人の男がオカルト話をでっち上げたらあぶない人たちに巻き込まれて大変だった、という話。ただこれだけの話を延々と引き延ばすのはすごい。衒学的大作。
点が三つあるだけで人の顔に見えてしまうシミュラクラ現象という現象があるくらい、人間は想像力が豊かな生き物である。古来より説明のつかない事象には何らかの名前をつけて処理してきたという歴史があるが、もちろんその中のいくつかは時代を経て科学として処理されたものもあるし、未だに未処理のままのものもある。未処理のものはまとめてオカルトと呼ばれる。わからないものを自分にとって都合の良いように処理したものであるから、その積もり積もった山もまた都合が良く胡散臭く思えるのは仕方のないところ。
一方で歴史というのは人の営みの積もった山であるが、記録のある部分だけが歴史として残っているのであってそうでない部分は想像に頼らざるを得ない。人の想像というものは都合の良い方に流れるものなので、記録の残らない歴史というのはおのずからオカルト的なものと親和性が高いのである。「フーコーの振り子」はそういったものの集大成ともいえるかもしれない。
いみじくも作中で主人公の恋人リアの「自分の姿を鏡に映して見れば、それでよかったのよ」というセリフがあったが、これこそオカルトの痛いところをついている。オカルト好きなら読んでもいいかもしれないが、おすすめはしない。

フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈上〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈下〉 (文春文庫)

フーコーの振り子〈下〉 (文春文庫)