谷崎潤一郎の随筆。
古来日本の生活は、電球を使う今の生活よりももっと暗く、どこにでも翳がつきまとっていたはずであり、日本の美、日本人の美意識もそこから離れては存在しえなかったはずである、という話。日本の家屋、着物、女性の化粧まで、この明かりを基準としていないはずはないのである。確かにそうだよなあ。明るく便利な電球と、暗いが優雅なろうそくの灯。一概にどちらが良いとは言えないが、少なくともむかしの日本を思い描くときの大前提としてあるべきものであり、その暗さへの親しみとおそれというものを無視してむかしの日本はない。
他に面白かったのはご不浄の話。著者曰く、母屋から離れたところにあるご不浄で、外の風の音を聞きながら用を足すのが最も良いという。なんとものんびりとした時代である。また著者の経験したおもしろいご不浄として、おそらく二階くらいの高さから屋外へ向けて放たれるぼっとん便所が紹介されている。これも中の人は良いが外の人はたまったものではない。オススメ。
- 作者: 谷崎潤一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1995/09/18
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