日の名残り

カズオ・イシグロの長編小説。以下amazonのあらすじ紹介。

短い旅に出た老執事が、美しい田園風景のなか古き佳き時代を回想する。長年仕えた卿への敬慕、執事の鑑だった亡父、女中頭への淡い想い、二つの大戦の間に邸内で催された重要な外交会議の数々……。遠い思い出は輝きながら胸のなかで生き続ける。

イギリスの伝統を誇りとする主人公は、執事という仕事にも誇りを持ち、自らの主人にも絶対の忠誠心を持って仕えていた。その様子は主人公の旅の途中の昔語りの中に見ることができるが、回想と共に主人公の考えが徐々に移ろう過程がうまく描かれている。
これはネタバレになるので未読の向きはここから先は読まないでほしいが、この小説のすごいところは読者が抱かされる主人公への好意でトリックを覆い隠している点である。人生の岐路において主人公がこだわった、仕事への熱意、英国の伝統、偉大さ、そういったものが読者の目にどう映るかまで計算されていて、すごい。その才能も人格も信じ切っていた主人と、一流の執事と自負しながらも自分に向けられた行為に気づかない鈍さもうまく重ねられている。海を眺めながら自らの取り返しのつかない過去を振り返る主人公の胸中やいかに。オススメ。

日の名残り (ハヤカワepi文庫)

日の名残り (ハヤカワepi文庫)