贖罪(上)(下)

小説を選ぶ際に目にするあらすじは、大まかな内容を教えてくれる便利なものだが、結末まで推察できてしまうことが多い。しかし読者は、というか私はあらすじについてはうるさい。つまらなそうな話は読みたくないので中身は知りたい、しかし読む段では未知の世界でわくわくしたい、欲を言えば結末では驚きたいという私のわがままな欲求を満たすあらすじはなかなかない。結末でどんでん返しを求めてはいても、「驚愕のラスト!」と書かれては興醒めなのである。
だが逆に言えば、その点を何とかできれば世間をアッといわせることができるのではないだろうか。内容はなんとなくわかる、しかし結末をまったく想像できない、というあらすじがあったらそれだけでベストセラーになるのではないか。まあこれは作家ではなく編集サイドの仕事なんだろうけども。
イアン・マキューアンの長編小説『贖罪』はこの私の希望に限りなく近い作品であった。物語の冒頭から長長と語られる、1935年ののどかなカントリーハウスの風景が、優美でもありじれったくもあり、このまま最後までいってしまうのか、と心配になってきたころ(上巻のほとんど最後)からようやく物語が動き出し、あとは怒涛の如く、話も進むし謎も明らかになるし、今までの話は伏線になるし、と忙しい。
これ以上はネタバレになるので詳しくは書けないが、簡単に言うと「その手があったか!」というこころもちである。

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪〈上〉 (新潮文庫)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)

贖罪 下巻 (2) (新潮文庫 マ 28-4)