鑑定士と顔のない依頼人

監督/脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ(2013 伊)
出演:ジェフリー・ラッシュドナルド・サザーランドほか
内容:謎の依頼人からの電話で鑑定を引き受けた主人公が顔を見せない依頼人の秘密を暴いていく。
 映画には場面場面に意味があり、その意味を積み重ねていくことで物語が進む。これは当たり前のことではあるけども、監督によってはそれをあまり感じさせない作品を作り上げる人もいる。話の性質にもよってはとにかくわかりやすくする必要のある時もあるであろうし、見る者の好みにもよるのかもしれないが、私の好みで言えば、なんとなく気がついたら話が進んでいる、くらいの見せ方が好きかもしれない。というのは過去に何度かそうでない映画を見かけて途中で見るのをやめてしまったということがあるのでたぶんそうなのだと思う。単純なのがすべてダメというわけでもないので、その辺は難しいところ。変化球も良いストレートがないと生きないというのに似ているかもしれない。
 という話を枕に持ってきて、ではこの『鑑定士と顔のない依頼人』はどうかといえば、顔を見せない依頼人の正体を暴くという一つのクライマックスまでは、なんというか話の方向性を明示せず、それでいて独身を続けてきた横柄かつ狷介な主人公のキャラクターとジェフリー・ラッシュの演技と監督の演出は見る者の興味を逸らさない。
 そこからは主人公と依頼人のドラマが進み、さらにはからくり人形の謎(と機械職人との関係)も混ぜつつ、物語はようやく流れるように進むが、おしまいにはすべてをひっくり返し、なおかつあの場面はこういう伏線だったのね、と見るものを納得させ、そして主人公に残ったのは希望なのか悲哀なのか、どのようにも解釈できる(というか私にはどっちなのか判断できない)場面で結末を迎える、というぐうの音も出ないほど私好みの作品でした。オススメ。ただ最後の喫茶店は絶対に落ち着かないと思う。