ジャク・リッチーのあの手この手

短編はアイデア勝負である。結末を読者に先読みされるようでは素晴らしい短編とはいえない。まして“「このミステリーがすごい!」第一位作家”という帯でハードルを上げきってしまってしまっては、読者に期待するなという方が無理な注文である。
しかもこの短編集では翻訳者が収録作品を変にパターン分けしていて興を削がれる。余計なことしなくていいのに。こうして本当に面白く感じられたのは、自殺志願者とそれを引き止める部長刑事の『下ですか?』、思わせぶりなことばかりを話す人々の町を訪れた男の話『保安官が歩いた日』の二編だった。ジャック・リッチーのことを何にも知らなければもう少し楽しめたと思うが、まあそれは仕方ないか。