虐殺器官

伊藤計劃の長編SF。
サラエボが核爆発によってクレーターとなった世界。後進国で内戦と民族衝突、虐殺の嵐が吹き荒れる中、先進諸国は厳格な管理体制を構築しテロの脅威に対抗していた。アメリカ情報軍のクラヴィス・シェパード大尉は、それらの虐殺に潜む米国人ジョン・ポールの影に気付く。なぜジョン・ポールの行く先々で大量殺戮が起きるのか、人々を狂わす虐殺の器官とは何なのか?
情報量が多いので何について書いたら良いのか戸惑うところだが、まず物語の本筋は虐殺を引き起こしていると目されるジョン・ポールを捕まえようとする主人公の話。ジョン・ポールはなぜ、どうやって虐殺を引き起こすのか。この辺がミステリにも入れられる所以か。
また罪を背負い込むことができなかった主人公の話という見方もある。ネタバレになるがエピローグで語られる結末で、主人公は罪を背負った。もっともこれはあくまでも主人公が望んだだけで背負ってないという見方もできる。
また徹底して細部まで繊細に描かれた(ちょっと「家畜人ヤプー」を思わせる)近未来世界。そしてそれを介して、または主人公とジョン・ポールの会話を介して語られる哲学。
そういった諸々が衒学的かつ繊細な文章で語られているのがこの作品。著者はモンティ・パイソンがかなり好きそう(スペインの宗教裁判とか、殺人ジョークとか)なのもポイントが高い。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)