東京の地霊(ゲニウス・ロキ)

「地霊」というのは聞きなれない言葉である。
ゲニウス・ロキ」という言葉はもっと聞きなれない。

どのような土地であれ、土地には固有の可能性が秘められている。その可能性の奇跡が現在の土地の姿をつくり出し、都市をつくり出してゆく。
(中略)
土地の歴史という視点は、「地霊」という概念に、あるところまでゆくと突き当たる。
地霊とは、「ゲニウス・ロキ」という言葉の訳語である。
(中略)
つまり全体としては、ゲニウス・ロキという言葉の意味は土地に対する守護の霊と言うことになる。一般にこれは土地霊とか土地の精霊と訳される。しかしながら、それは土地の神様とか産土神といった鎮守様のようなものとは考えられておらず、姿形なくどこかに漂っている精気のごときものとされるのである。

著者はまえがきで上のように説明している。ひらたく言えば土地にまつわる因縁話ということである。例えば第1章は港区六本木。皇女和宮東久邇宮家、林野庁(日本の山林)という、重要でありながら影の薄い存在によって受け継がれた土地、ということである。
地霊の存在はどうかしらないが、歴史のエッセイは連想をつないで書いてある方が面白い。また親しみのある東京の、それも明治から戦前にかけての話を細細と調べてあって、楽しく読める。
ちなみに第二章以下の内容は以下の通り。
千代田区紀尾井町。大久保暗殺現場と司法研修所跡地。
文京区護国寺護国寺の復興。
台東区上野公園。江戸を治める鍵としての上野。
品川区御殿山。桜名所の変貌。
港区芝。NEC本社ビルの土地の由来。
新宿区新宿御苑。新宿に建てられるはずだった宮殿。
文京区椿山荘。山県有朋の庭園。
中央区日本橋室町。三井と張り合った一族。
目黒区目黒。明治における士族の成功例。
文京区本郷。東大キャンパスの由来。
世田谷区深沢。最後の巨大和風庭園。
渋谷区広尾。皇后の館。

東京の「地霊(ゲニウス・ロキ)」 (文春文庫)

東京の「地霊(ゲニウス・ロキ)」 (文春文庫)