デュ・モーリアの短編集とはいいながら中編ぐらいの長さのものが多かった。表題作はヒッチコックの映画『鳥』の原作。ちなみにヒッチの初オスカー作『レベッカ』の原作もデュ・モーリア。よほど気に入っていたのだろう。
収録されている作品は、ミステリアスな若い女性を追いかける『恋人』、ある日突然人間を襲い始めた『鳥』、退屈なバカンスが大変なことになる『写真家』、友人の妻の失踪を追う『モンテ・ヴェリタ』、亡き妻の面影が気になる『林檎の木』、オチが命の『番(つがい)』、不条理な出来事に翻弄される『裂けた時間』、そして若奥様の突然の死を追う『動機』、とすごくバラエティに富んでいてそれぞれ違った雰囲気だが、全体にどこかどんよりとしたような、燻った香りがこびりついているように思えた。話としては最後の『動機』が一番面白かった。

鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)

鳥―デュ・モーリア傑作集 (創元推理文庫)