残酷な方程式

表題作など16編を収録したロバート・シェクリィの短編集。
何度も同じことを書いているような気もするが、私にとって短編小説を楽しめるかどうかは、前提となる世界をすんなりと理解できるかどうかが重要らしい。おそらく舞台があまりにも現実とかけ離れていると、何が起こっても不思議でない感じがするためだろう。自分ではこれは自分があまりにも常識的な人間だからだと思うが、周りの人はあまり同意してくれないのでその点については私のこころのうちにおさめておくことにする。
さてそういう意味では現代を舞台にして物語がSF的であるのが一番楽しめるようで、この短編集においては一つ目の『倍のお返し』なんかがそれに当たる。悪魔が現れて3つの願いをかなえてやるという古典的なアイデアに加え、ただし何を願っても自分の最大の敵にそれが倍になってもたらされる、という新しいアイデアが加わった話。それだけといえばそれだけなのだが、それだけで面白いのだから仕方がない。古典というものはシンプルなものと相場が決まっているもので、逆にゴテゴテといろいろな設定を付け加えられては理解するのに時間がかかってしまう。これについては私の頭の回転が比較的緩やかであるというよりも個人の好みの問題であり、短編小説の宿命でもあると思う。まあとにかくシンプルな舞台で素敵なアイデアを基に作られており、なおかつ結果が気になる話が好き、というかそういう短編が私の中では評価が高い。私は見た目はぼんやりしていても、ふたを開ければ江戸っ子気質なのである。そういう意味では『シェフとウェイターと客のパ・ド・トロワ』でも一つの事実を三者三様に告白させるという、芥川の『藪の中』を思い出させる形式をとっていてこれも面白かった。
ただ『倍のお返し』も『シェフと〜』も、面白くはあるがそれ以上のものではない。それ以上のものを求めて買った本ではないのでこれについては構わないのだが、珠玉の短編と呼ばれるには面白さにプラスα、読み終わったあとに何か残るものがなければならないように思う。そういう意味で、私にとってシェクリィはトップの作家ではなかった。もっとも他の話が面白くなかったというのもあるけども。

残酷な方程式 (1985年) (創元推理文庫)

残酷な方程式 (1985年) (創元推理文庫)