こころ

高校生の時分に現代文の課題として1年間勉強したはずの夏目漱石の「こころ」を久しぶりに読んでみたら3時間で読み終ってしまった。それだけ面白いというか、上・私と先生の出会い、中・途中経過、下・先生の告白という三段からなる話が読者をひきつけるべくうまく組み立てられているように思う。
この物語にはいくつかの死が出てくるが、中でもKの死と先生の死は全く種類が異なっており、前者は精神の強さによる死であり、後者はその純粋さゆえであり、つまるところ精神の弱さということになるだろう。先生は以前受けた裏切りによって人を信じることが出来なくなっているが、それでいて信じたくてたまらずにいる。そしてその裏切りを憎んでいる一方で、Kに対して自らの欲のために自分がされたのと同じような裏切りをしてしまった(少なくとも先生はそう思い込んでいる)。こういった矛盾した胸中は私宛の手紙の中で正直に語られ(「それでも私はついに私を忘れる事ができませんでした。」が印象的。)ているが、それは実は誰もが一度は通る道であるわけで、先生は特別に普遍的な存在かと思う。もっともKも先生もあくまで物語上の人物であるので純粋培養されたような存在であることは言うまでもなく、是非を問うことは難しいというより意味のないことかもしれないが、乃木稀典の殉死に象徴されるように少なくとも明治という時代にはそういう気分があったことを思わせる物語である。

こころ (新潮文庫)

こころ (新潮文庫)