おかしな男 渥美清

おかしな男 渥美清 (新潮文庫)

おかしな男 渥美清 (新潮文庫)

男はつらいよ」の寅さん役で国民的スターとなった渥美清を演じていた田所康雄の、著者から見た半生記。他に渥美清と絡んでくる森繁久弥フランキー堺らの話もあり、昭和の映画・演劇史的な一面も面白い。寅さんとはかけ離れた田所康雄のアクの強さに作者は距離を置くようになるが、役者としての執念ともいえる姿勢には敬服しているらしい。元アウトローアウトロー役のままでトップにまで登りつめたことに、「国民栄誉賞を与えるのはおかしい」と言う文章を書いたことがある、という話があったが、これはむしろ渥美清を正当に評価していない世間への批判のように思う。
男はつらいよ」が当たってからの渥美清は、元々弱い体が更に病に蝕まれていくが、松竹や世間から半ば強制的に出演させられているような状態になってしまう。正に国民的スターの悲哀。そして「男はつらいよ」は渥美清の人生と共に終焉を迎え、松竹はその経営を大きく傾かせたまま現在に至るのである。