大貧帳

大貧帳―内田百けん集成〈5〉 ちくま文庫

大貧帳―内田百けん集成〈5〉 ちくま文庫

百輭先生のお金にまつわる随筆集。お金にまつわると言ってもお金があるわけではなく、ないから問題なのであり、随筆のネタにもなる。貧乏の理由は不明だが、とにかくお金がない。お金がないから人から借りる。高利貸しから借りる。借り続けることで利子は増える。利子は増えてもお金がないから返せないわけだが、督促に来る人たちも「うちわを使うのと汗を拭くのとで両手が塞がっていたから原稿が書けなかった」等という人を相手にするのだから大変である。
お金のことを考えていれば、お金や借金に対する自己観念もできる。その観念とは、お金はくだらないものであるから借金万歳!と快哉を叫ぶような借金通であることへの自負であり、その姿勢には読みつづけていると自らの価値観を怪しんでしまうほどの自信と誇りが溢れている。お金のために一喜一憂する自分を客観的に見たり韜晦したりする姿と、百輭先生の偏屈ぶりと世間一般的には無用かもしれない気高さとの間に生まれた笑いを堪能できる。