70年代日本人から見たアメリカ『淋しいアメリカ人』桐島洋子

イケイケに見えるアメリカ人も闇を抱えているんだねという話、体験記?著者がどういう人かよくわからない*1けども、なかなか鋭い洞察が多い。特に黒人問題については現代のBLMにまでつながる深い話。 著者の黒人へのスタンスは、差別する気はないけど自分と…

最近読んだものの記録

3月末に棚卸を済ませ、経理の決算作業のお手伝いをする日々が続いていたが、ようやく決算が終了。今期はコロナ禍にもかかわらず、なかなか良い数字を残すことができたので満足。何やかやと忙しいが、やることがあるのは良いことである。 その間にも読書はし…

『批評理論入門』廣野由美子

私がここに書いているのは感想であって批評ではない。そんなことは百も承知であるが、では批評とはどのようなものかということで読んでみた新書。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を例に「小説技法」と「批評理論」について説明。大学で勉強し…

『アメリカ彦蔵』吉村昭

アメリカに渡った彦蔵の話。と書くと現代では普通のことだが、時代は幕末。船乗り見習いだった彦蔵は乗る船が嵐にあい、アメリカの船に拾われて渡米。そこから中国へ行き、日本へ帰ろうとするもちょうど異国船打払令が出たところで幕府から砲撃されて失敗、…

ミクロネシアは昔も今も大きく変わらない『ミクロネシアの民話 くじらとたこの戦い』

タイトル通り、ミクロネシアの民話を集めた本。キリスト教的価値観が入る前の話なので、話の落ちに勧善懲悪というか因果応報的なものが少ない。それでも全くないわけではなく、いくつかは悪いことをすると報いを受ける、だから親の言うことは聞きましょう的…

「もののけ」と人々の反応の変遷『もののけの日本史』小山聡子

それぞれの時代の「もののけ」という言葉の使われ方、意味を通して「もののけ」とは何かを探る。 「もののけ」とは本来「物の気」で、なんだかよくわからんものをまとめてそう呼び、調伏したり供養したりの対象となった。時代が下がるにつれて幽霊・魂魄・ば…

タイトルほど恐ろしさはない爽やかファンタジー『この本を盗む者は』深緑野分

" data-en-clipboard="true"> 深緑野分の長編小説。本が盗まれると発動される呪いの世界で主人公が犯人を捕まえるファンタジー。タイトルからドロドロした話を期待していたのだが、おどろおどろしい要素はほとんど無し。ミステリというほどちゃんとした犯人…

『日本は誰と戦ったのか - コミンテルンの秘密工作を追及するアメリカ』江崎道朗

『スターリンの秘密工作員』という本を紹介した本。太平洋戦争は日本の侵略戦争だったのか。機密文書などが公開されるにつれて太平洋戦争におけるアメリカの判断は正しかったのかを検証する動きがあり、実はソ連の工作によるところが大きかったようだ、とい…

『科学と科学者のはなし』寺田寅彦

寺田寅彦の随筆集。娘のために買ったものの、自分が先に読んでしまった。 寺田寅彦といえば『吾輩は猫である』の寒月君のモデルとして有名。漱石関係の話にはよく出てくる人。本書にも漱石との関係についての文章がある。門下から見た漱石を垣間見られて楽し…

太平洋諸国と日本とのつながり『太平洋諸島の歴史を知るための60章』

太平洋地域の歴史を知るのによい一冊。太平洋は広いようで狭い、というのは関係者の間でよく言われるが、執筆陣にも知ってる人がちらほら。歴史の読み物としても面白いが、自分の身の回りのことでもあるので勉強になる。 太平洋地域には日本とのつながりが深…

3人の粗忽者とモンモランシーのテムズ川のぼり『ボートの三人男』ジェローム・K. ジェローム

ジェローム・K. ジェロームのユーモア小説。男3人と犬一匹が、2週間かけてロンドンからオックスフォードまで川を上る舟旅。周辺の歴史・名所案内が詳しいが、不勉強のため興味を持てず。知ってる人が見たら面白いかもしれない。それぞれの登場人物の粗忽が笑…

「日本のおじいさん」の回想記『俳優になろうか―私の履歴書』笠智衆

『男はつらいよ』の御前様の役で有名な笠智衆の回想記。実家が熊本のお寺で、「笠智衆」は本名。その他、当時の映画会社の大部屋での過ごし方とか、小津安二郎の演出とか。昭和の日本映画史をまるまる生きてきた人の話としては印象通り素朴すぎて物足りない…

明治の人間の新しい世に対する気概が感じられる『学問のすすめ』福沢諭吉

「天は人の上に人を作らず~」で有名な福沢諭吉の本。読み終わってから出版社が幸福の科学であると気づいた。それでも内容は普通のと変わらないでしょうたぶん。 ちなみに先述の言葉は有名であるが、平等主義の言葉ではなく、人は生まれてきたときは平等だけ…

主に怠惰から年内に感想をまとめられなかった本たち。

" data-en-clipboard="true"> " data-en-clipboard="true"> 様様な事情により感想をまとめられなかった本がある。今年のものは今年のうちに何とかしてスッキリしたいので、下記に。 ハワイ・南太平洋の神話―海と太陽、そして虹のメッセージ (中公新書) 作者:…

様様な時代と場所の少女の視点『オーブランの少女』深緑野分

" data-en-clipboard="true"> 深緑野分の短編集。表題作「オーブランの少女」が良かった。美しい庭園の管理人が殺された事件の過去には何があったのか、という話。女の子を主人公にすることで必要な情報を隠し、読者を惑わせるのが上手。主人公たちの呼び方…

日本人に哲学はわからないという開き直り『反哲学入門』木田元

大学の一般教養課程で、簡単に単位をとれるという評判の授業は当然学生に人気があるものだが、私の在学時は哲学の授業がそうだった。授業の出欠は取らず、テストも回答においしいカレーの作り方を書くだけで単位が取れると噂されたその授業は、担当教師の名…

宗教嫌いの日本人が読んでおくべきかもしれない『世界がわかる宗教社会学入門』橋爪大三郎 

日本で宗教というと冠婚葬祭でお世話になる程度の認識が一般で「葬式仏教」という言葉もあるほどである。日常的に「宗教」といえば「あやしい」「胡散臭い」という枕詞がつくといっても過言ではない。これはカルト宗教によるテロ事件以降、加速傾向にあると…

歴史に消えた古代図書館は誰もが想像できる方法で存続していた『失われた図書館』A・M・ディーン

映画化を狙ったような海外サスペンス小説を読む場合、姿を現さない悪者の描写とか、主人公が悪者と対峙する場面がすごくいらないと思うのだけども、それはおそらく読む原動力が謎の部分への期待にあるからである。ただ海外サスペンス小説の著者はどういうわ…

南の島と震災の記憶を描いた『絶唱』湊かなえ

湊かなえの連作集。神戸の震災で受けた様様な傷を南の島で昇華する話。ではあるが、それよりも南の島(トンガ)の日本人が描かれていてちょっとうれしい。そもそもミカさんより南の島の人がいい感じに出てくるということで勧められた本で、確かに大体こんな…

戦中戦後ドイツの混乱『ベルリンは晴れているか』深緑野分

深緑野分の長編ミステリ。舞台は第二次大戦後のベルリン。主人公は突然ソヴィエトの警察に拘束され、殺人事件への関与を疑われる。 まず舞台となる戦後ベルリンの圧倒的な情報量に驚く。翻訳小説っぽさもあり、これ書いたのドイツ人だっけ?と確認してしまっ…

RIP外山滋比古『思考の整理学』

外山滋比古が亡くなったので、追悼第一弾として『思考の整理学』を久しぶりに読んだ。ちょうど先日のシン・ニホンに書かれていたようなことが書いてあった。自分の頭で考えることの重要性である。30年以上前に書かれた本が今でも通用するというか、今こその…

現代民話考<10> 狼・山犬・猫

松谷美代子によって集められた明治以降の民話集その10。今回のテーマは狼・山犬、猫。 最近の日本で狼と言ってもウルフ千代の富士貢くらいしか思いつかないが、明治頃まではあちこちにいたらしい。東京でも稲城や府中、檜原村、私のお膝元である中野区などの…

シン・ニホン AI×データ時代における日本の再生と人材育成

全日本から別れたプロレス団体の40年の軌跡。ではなく、ここ20年ばかり停滞している日本を立て直すためのアイディアの本。 人工知能の活用、女性や高齢者を労働力として生かすための働き方の改善、労働の生産性を上げることなどによりこれまでの遅れを取り戻…

とどめの一撃

第一次大戦前後のバルト海あたりの話。主人公と友人とその姉。主人公目線で語られたところによると、友人の姉は主人公を愛しているが、煮え切らない主人公の気を惹くべく、他の男と関係を持ち、それを主人公に報告してくる。そしてそれでも煮え切らない主人…

現代民話考〈9〉木霊・蛇・木の精霊・戦争と木

松谷みよ子によって集められた明治以降の民話集その9。今回のテーマは木霊・蛇等等。 蛇はヤマタノオロチを引き合いに出すまでも無く、元より生と死の象徴だったり神の使いだったり信仰の対象であり、身近な存在であるので話例も多い。驚くのは大蛇の話が多…

現代民話考1 河童・天狗・神かくし

日本民話界のエース、松谷みよ子によって集められ編集された現代の民話集。それぞれのテーマについて日本各地から集められた話が話者の口調そのままに収められている。 河童の話は全国から集められており実際に見たという話も多いが、天狗は気持ち東寄り、ま…

ぼっけえ、きょうてえ

岩井志麻子のホラー短編集。 タイトルにもなっている「ぼっけえ、きょうてえ」は岡山弁で「すごくこわい」という意味だそうである。収録されているのは、女郎が客に身の上話を聞かせる「ぼっけぇ、きょうてぇ」、流行り病の対策担当となった役人の話「密告函…

満願

米澤穂信のミステリ短編集。読者をミスリードさせて結末で引っくり返すタイプ。どれもきれいにどんでん返しが決まっているが、さらりとしているのでパンチが弱く感じた。盛り上がりに欠けるというか。 ただ『関守』だけは十分恐かった。落ちが読めてもまだ怖…

史上最強のCEO

独特の高テンションで痛いところを突いてその気にさせようとする自己啓発本。 そもそも「国内で初日に100万部突破!」が胡散臭い。出版社もあまり聞いたことのない会社だし、ググるとあちこちに勝手にポスティングされてたという話もあるし、何なんですかね…

漂流記の魅力

吉村昭の新書。漂流記とは、主に江戸時代に盛んだった船による運搬につきものの漂流についての記録である。多くは帰還者からの聞き書きが多いらしい。本のタイトルからして漂流記全般について語るのかと思いきや、2章以降は江戸時代、若宮丸が漂流してロシア…